新たな検証課題と高性能FastSPICEシミュレータSpectre FX
半導体業界は変化し続けており、複雑な設計の検証には新たな課題が生じています。特に、新しいアーキテクチャや先端ノードプロセスによるデザイン・サイズの増加、そしてレイアウトの寄生素子の指数関数的な増加が挙げられます。このような状況に対応するために、SoCやメモリの設計チームは、高い生産性と非常に優れたシミュレーション精度を実現するFastSPICEソリューションを求めています。ケイデンスの次世代FastSPICEシミュレータであるCadence® Spectre® FX Simulator(以下Spectre FX)は、最新のメモリやSoCの検証に必要な高い精度と性能を提供しています。
メモリとSoC設計の複雑化に伴う課題
現在のメモリやSoCの設計は、アナログ回路とデジタル回路が複雑に結合したシステムです。最新の設計は、市場の要求に応えるために複雑化していて、高性能化や低消費電力化を実現するために、最先端の半導体プロセスで製造されるデザインが増えています。数千万個のトランジスタと数億個の寄生抵抗や寄生容量を含む大規模なネットリストを使用して、テープアウト前に、さまざまなPVTコーナーや動作条件でデザインを評価する必要があります。
図1:主要なFastSPICEユーザの要求
Spectre FX
Spectre FXは、大規模なDRAM、フラッシュ、SRAM、トランジスタレベルのSoCデザインのプリ/ポストレイアウトの検証用に開発された次世代FastSPICE回路シミュレータです。Spectre FXは、最新のFastSPICEシミュレータと同等以上の精度で最大3倍の性能を実現し、最大32のCPUコアを活用することができます。設計チームは、サインオフに向けてメモリやSoC設計の機能、タイミング、消費電力を正確に検証し、生産性を高めることができます。Spectre FXは、革新的なアーキテクチャを採用しており、同じデザイン内の繊細なアナログ回路とイベントドリブンなデジタル回路を扱うように設計された独自の技術を用いて、シミュレーションの精度と速度の最適なバランスを見つけることにより、非常に高いシミュレーション精度と性能を実現しています。
図2:Spectre FXの性能比較
最小限のチューニングでクラス最高のユースモデル
FastSPICEシミュレータを使用するうえで設計者が直面するもうひとつの課題は、最適な精度と性能を実現するために、シミュレータを適切なオプション設定にチューニングする必要があることです。Spectre FXは、アプリケーションに応じた最小限のチューニングで、優れた精度と性能のバランスを備えたユースモデルを提供します。また、シミュレーションの精度と性能のトレードオフを予測可能な方法でコントロールするためのプリセットが用意されていますので、設計者は、リーク電流の測定やタイミング・チェックなど、検証作業に応じて適切なプリセットを選択することができます。さらに、Spect FXにはSPICEおよびFastSPICEモードが用意されており、設計上の問題点のデバッグや機能検証時のゴールデン・リファレンスの確立に役立ちます。Spectre FXを利用すれば、設計者は検証に使うツールにではなく、設計上の問題の発見と解決に労力を集中させることができます。
図3:Spectre FXのプリセット
- Vx: 機能チェック用の最速モード
- Lx: タイミング、電圧、正確な平均電流のチェック
- Mx: 高精度タイミング・チェックおよびピーク電流チェック
- Ax: FastSPICEのキャパシティで正確にリファレンスを取得
既存の検証フローと完全互換
Spectre FXは、約30年にわたって設計者が信頼してきたSpectreプラットフォームの強固なインフラストラクチャを活用し、既存のSpectreフローとの完全な互換性を実現しています。また、Virtuoso® ADEと緊密に統合されており、アナログ設計者や検証エンジニアにシームレスな使用体験を提供します。
図4:VCOインスタンスを回路図から選択し、ローカルでプリセットを設定している例
ミックスシグナル・シミュレーションにも対応
Spectre FXはSpectre AMS Designerシミュレータと統合されています。タイムドメイン・シミュレーション中、Spectre AMS Designerは、Spectre FXとXcelium™イベント・ソルバーの両方を同期させますが、設計者はこれを気にする必要はありません。自動的に挿入されるインターフェイス・エレメント(IE)が、信号をlogicからelectrical、electricalからlogic、realからelectrical、またはelectricalからrealに変換します。アナログ・ソルバーとしてSpectre FXを使用することにより、ミックスシグナルの大規模デザインを高速にシミュレートすることができますので、チップ全体の機能検証への利用も可能です。
図5:Spectre FXとSpectre AMS Designer
関連情報
- Spectre FX ブログ
- 実習データ付き技術資料 (Cadence Learning&Supportへのログインが必要です)
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カスタムIC&シミュレーション&SPB
渡部 陽子
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