HiFi-TURB プロジェクト - AIおよび機械学習による乱流モデリング
今日の流体力学における重要な課題は、乱流に依存する流れの特徴を捉えることが難しいことです。そのため、航空機の翼上での流れの剥離、衝撃波と境界層の相互作用などの事象が発生する問題にCFD (Computational Fluid Dynamics)を適用する場合、その信頼性が十分ではありません。複雑な流体モデルの機能を向上させることで、航空機・自動車・船舶のエネルギー消費、温室効果ガス排出、騒音を削減することができます。これらの複雑なモデルを活用することで、経済性や業界における優位性を獲得することに繋がり、高い競争力を発揮することができます。したがって、乱流現象を理解し、モデル化し、予測することは、効率的で環境に安全な設計のための鍵となります。これを実現するために、HiFi-TURBプロジェクトは、先進的な乱流モデルにおけるいくつかの欠陥を解決する、非常に野心的で革新的なプログラムに着手しています。
HiFi-TURBプロジェクトは、次のような目的を掲げています。
- 注目すべき主要な流れの特徴を含む様々な参照流れに対して、高忠実度のLES (Large Eddy Simulation)/DNS (Direct Numerical Simulation)データを利用する。
- 新しい人工知能と機械学習アルゴリズムの適用により、代表的な乱流量間の有意な相関を特定する。
- 乱流モデリングの世界的な専門家による、モデル改良に向けた研究の指導を受ける。
本コンソーシアムは、ケイデンス・デザイン・システムズがコーディネーターを務め、大手航空会社やソフトウェアベンダーが提携しています。ERCOFTACを含む有名な研究センターや学術団体が、乱流の専門知識の伝えるために活動しています。
ケーススタディ:高忠実度シミュレーションと機械学習による乱流の研究
ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC: High Performance Computing)の活用は、乱流モデル開発の新たなアプローチへの扉を開くものです。本研究では、人工知能(AI: Artificial Intelligence)と機械学習(ML: machine Learning)の技術を、剥離流れ領域や複雑な3次元流れの特徴を含む、高忠実度、スケール解像シミュレーションのデータベースに適用します。図1は、乱流モデリングタスクのベースとして使用される流れ場の例です。
図1. T161カスケードの流れ構造(乱流モデル改良のための入力として使用される典型的な流れ場)
このようなシミュレーションで生成される膨大な量のデータには、新しいデータマイニングアプローチが必要です。そこで、3Dスケール解像シミュレーションから得られる大量のデータを分析するために、Neural Concept社のディープラーニングに基づくツールチェインを導入しました。形状ベースの変分オートエンコーダ(VAE: Variational Auto-Encoder)を使用して、Cadence CFDは、平均化された流れの変数間の相関関係についての洞察を得ることに成功しました。VAEは、データを物理的に意味のある「埋め込み」に圧縮し、圧縮されたデータから元の入力を再構築します。これを高い精度で行うことで、MLモデルを元データの代替品(サロゲート)として使用することができます。これにより、データの取り扱いが容易になり、データマイニングの利用が可能で、問題に関わる物理現象への洞察を得ることができます。
図2. 調査したシミュレーション領域(左)と物理量の統計解析(右)
図2は、可能な解析の一例です。2Dプロット上のシンボルカラーは「埋め込み」値に対応し、3Dビュー(左)と2Dプロット(右)で同じ色になっています。同じ色の点は、考慮された全ての物理量について同じ値を持ちます。埋め込み値で色付けされた3Dビューは、調査した領域におけるいくつかの物理量に関するグローバルな統計表現です。どちらのプロットも、MLモデルを用いた流れの挙動に関する新しい視点を提供しています。
HiFi-TURB ワークプログラム
- ワークパッケージ1:マネジメント
タスク1:一般的な調整/プロジェクトの運営
タスク2:知識交換(相互コミュニケーション/ウェブサイト)
タスク3:普及/利用促進 - ワークパッケージ2:CPUコスト削減とカーブドメッシュ生成に向けたHOM (High Order Method)の更なる改善
タスク1: 高忠実度LES/DNSのためのCPUコスト削減
タスク2:産業用カーブグリッド生成技術の実現 - ワークパッケージ3:特定された物理現象に対する高忠実度LES/DNSデータセットの生成
タスク1:特定された物理的特性を持つ基本的かつ産業的に関連するテストケースの選択
タスク2:新しい高忠実度LES/DNSデータセットの生成 -
タスク3:LES/DNSデータの評価、信頼性、品質 - ワークパッケージ4:LES/DNSデータの特徴検出と高度解析
タスク1: データ駆動型手法による平均化された基礎乱流データの解析
タスク2:HRLM (Hybrid RANS-LES Method)とWMLES (Wall-Modeled Large Eddy Simulation)に接続されたAIと深層学習の方法論による非定常乱流データの解析 - ワークパッケージ5:乱流モデリングの評価と改善 - (ワークパッケージ5タスクグループによってモニタリング)
タスク1: EARSM (Explicit Algebraic Reynolds Stress Model)乱流モデルの開発、改良、評価
タスク2:DRSM (Differential Reynolds Stress Model)乱流モデルの開発、改良、評価
タスク3:WMLESおよびハイブリッドRANS-LESのための壁モデルの開発、改良、評価 - ワークパッケージ 6: 代表的かつ産業関連のテストケースに適用される新しい乱流モデルの検証
タスク1: 外部流れでの検証(高揚力と抗力予測WSケース) - ベースラインから新機種まで
タスク2:固定(ディフューザー)および回転ケースにおける内部流れの検証(ベースラインから新機種まで)
タスク3:評価と提言 - ワークパッケージ 7: オープンアクセシビリティのためのLES/DNSデータベースの管理(ERCOFTAC)
タスク1: データベース基準および実装ルールの定義
タスク2:LES/DNSデータベースの作成と管理
タスク3:ワークパッケージ 6:の結果をERCOFTAC Wikiの知識ベースに統合
HiFi-TURBコンソーシアムメンバー
ケイデンス・デザイン・システムズ ベルギー(コーディネーター)
Dassault Aviation
SAFRAN S.A.
Imperial College London
ANSYS Germany
Cineca Consorzio Interuniversitario
Barcelona Supercomputing Center – CENTRO National de Supercomputacion
Centre de Recherche en Aéronautique ASBL - CENAERO
Centre Européen de Recherche et de Formation Avancée en Calcul Scientifique - CERFACS
Office National d’Etudes et de Recherches Aerospatiales - ONERA
Deutsches Zentrum für Luft und Raumfahrt - DLR
Università degli Studi di Bergamo
Universite Catholique de Louvain
European Research Community on Flow Turbulence and Combustion – ERCOFTAC
Central Aerohydrodynamic Institute -TsAgi
Numecaセールス
プリンシパルアプリケーションエンジニア
内藤 大貴
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