EMX Planar 3D Solver version 6.0アップデートと
Virtuoso RF Solution環境から実行できる電磁界解析フロー
EMX® Planar 3D Solverがケイデンス社の製品となり約1年が過ぎ、昨年末にはEMX Planar 3D Solver version 6.0がリリースされました。EMX Planar 3D Solverは、既に主要なファウンドリでの使用実績のある、市場をリードするモーメント法(MoM)ベースの電磁界解析ソルバです。EMX Planar 3D Solverがケイデンスのプロダクトになることのメリットの1つは、ケイデンス製品との統合がより緊密となり、統合環境の使い勝手の向上や設計ソリューションの完成度が高まることです。
この記事ではEMX Planar 3D Solver version 6.0から機能追加されたVirtuoso RF Solution環境からの実行、および、Virtuoso RF Solution環境からの電磁界解析の抽出/シミュレーション・フローの有益な機能について紹介します。
EMX Planar 3D Solver
EMX Planar 3D Solverは、既にVirtuoso® 設計環境とシームレスに統合されています。独自メニューをVirtuoso Layout画面から起動し、EMX Planar 3D Solverによる解析と抽出、および等価モデル(Sパラメータや回路図)の生成を、簡単に実行できます。生成された等価モデルは、VirtuosoデータベースとしてADEからのシミュレーションに利用でき、これによりVirtuoso設計環境からの非常に使い易い設計/検証フローを提供しています[3]、[5]。
次に、EMX Planar 3D Solver version 6.0の主な機能改善の項目を以下に示します。
- ライセンス・デーモンの変更
EMX Planar 3D Solver version 6.0からはケイデンスのライセンス・デーモンに変更されました。これにより、従来、実行のために2つのデーモンを起動していたものが、1つのデーモンによる管理が可能となりました。 - EMX Planar 3D SolverのVirtuoso Interfaceの使い勝手の改善
Tooltipsの表示とAssistantフォームを使ったパラメータの入力が可能となりました。 - Virtuoso RF Solution環境からのEMX Planar 3D Solverの実行
Virtuoso RF Solution環境のElectromagnetic Solverアシスタントから選択できる電磁界解析ソルバにEMX Planar 3D Solverが追加されました。
Virtuoso RF Solution環境
Virtuoso RF Solution環境はICADVM 18.1から導入された設計メソドロジー環境です。Virtuoso RF Solution環境は、Virtuoso環境の回路図ドリブンによるICパッケージの協調設計や協調検証の種々のフローを可能にする、5G、自動車、IoT製品などの高度なモジュール設計を実現するために必要な設計環境です[4]。この環境では、ゴールデンの回路図を中心にして、物理的なレイアウトの実装と検証、ファブリック間の寄生抽出や電磁界抽出、レイアウト後のシステム・シミュレーションが可能です。
図 1: Virtuoso RF Solution環境の概要図
Virtuoso RF Solution環境に備わっているElectromagnetic Solverアシスタントには複数のEM(電磁界解析)ソルバが統合され、同一の使用法で異なるEMソルバの実行が可能です。EMX Planar 3D Solver version 6.0は、ICADVM 20.1 ISR15から実行できるようになりました。これにより、EMX Planar 3D Solverの従来からの使用法だけでなく、高機能な設計環境を提供するVirtuoso RF Solution環境のフローの一部としてEMX Planar 3D Solverを利用できます。
Electromagnetic SolverアシスタントからのEMX Planar 3D Solverの実行
Virtuoso RF Solution環境のElectromagnetic Solverアシスタント機能では複数のEMソルバを選択できます。Clarity™ 3D Solverは3次元の有限要素法(FEM)ソルバです。EMX Planar 3D SolverとAWR® AXIEM®はMoMベースのソルバです。レイアウト・デザインの部位に応じてElectromagnetic Solverアシスタントから、適切なEMソルバを選択することで高精度かつ効率的な抽出が可能です。
図 2: 複数の電磁界解析ソルバの選択とクロスファブリックの電磁界解析モデリング
ICの内部のパッシブ・デバイスやインターコネクトの抽出は、プレーナ3次元抽出に適したMoMベースのEMソルバを利用することが速度と精度の点から効果的です。IC外部のパッケージやボードの複雑な3次元構造を電磁界解析する場合は、より複雑な3次元構造を扱うことができる有限要素法ベースのEMソルバを利用することが効果的です。Electromagnetic Solverアシスタントでは、同じメニューから異なるEMソルバを選択でき、同一の使用方法で異なる計算方法のEMソルバを実行できます。また、これらのEMソルバによる解析結果はVirtuoso RF Solution環境に自動で戻されるため、データ取り込みや変換の手間を必要としない解析フローを構築できます。
以下に、Electromagnetic SolverアシスタントからのEMX Planar 3D Solverの選択方法を示します。
図 3: Electromagnetic SolverアシスタントからのEMX Planar 3D Solverの選択
Electromagnetic SolverアシスタントのSimulatorの項目からEMXを選択することで、EMソルバとしてEMX Planar 3D Solverが実行されます。解析後の結果のSパラメータもこのアシスタントから確認することができ、Sパラメータをデザインにバックアノテートするための機能も備わっています。設計者は手作業でデータを編集する必要が無く、システムは、解析対象のネットやインスタンスをnport素子に置き換え電磁界解析から得られたSパラメータを自動的にデザインに取り込みます。
電磁界解析実行時の除外セルの指定
実際のICデザインは、アクティブ・デバイスとパッシブ・デバイスの両方により構成されています。通常、パッシブ・デバイスやインターコネクトがEMソルバの解析とモデル化の対象です。アクティブ・デバイスを電磁界解析の実行の指定から除外することを考えた場合、ICレイアウトの全体に多くのアクティブ・デバイスが配置されているため、手作業による除外は現実的ではありません。この様な場合は、Electromagnetic SolverアシスタントのExcluded Cellsの機能を利用することで、任意のアクティブ・デバイスを選択しEMX Planar 3D Solverの電磁界解析の実行から簡単に除外できます[7]。
以下に、Electromagnetic SolverアシスタントのExcluded Cells機能を用いた抽出/シミュレーション・フローを示します。
図 4: Excluded Cells機能を利用した
ICレイアウトの抽出/シミュレーション・フロー
電磁界解析とRC寄生情報の抽出結果を統合した抽出/シミュレーション・フロー
EMX Planar 3D Solverを用いることで、インダクタの抽出およびモデル化が可能です。抽出されてモデル化された結果はschematicにバックアノテートされます。Virtuoso RF Solution環境の場合、さらに、インダクタ以外のインターコネクトやデバイスをQuantus™ Extraction Solutionにより抽出し、配線の寄生成分(RC)を含むSmart ViewとEMX Planar 3D Solverの電磁界解析から得られたSパラメータを統合し、デザインのより現実に近いモデル化が可能です[6]。Virtuoso RF Solution環境にはGUI操作によるデザインの統合機能が備わっています。この機能を利用することで、手作業による誤った操作の混入を防ぐことができ、効率的なデザイン・フローを実現します。
以下に、Virtuoso RF Solution環境によるEMX Planar 3D SolverとQuantus Extraction Solutionを用いたICレイアウトの抽出/シミュレーション・フローを示します。
図 5: EMX Planar 3D SolverとQuantus Extraction Solutionを用いた
ICレイアウトの抽出/シミュレーション・フロー
Virtuoso RF Solution環境によるICとパッケージの抽出データを取り込んだシミュレーション・フロー
上記では、Virtuoso RF Solution環境のICデザイン内を電磁界解析とRC寄生情報の抽出およびシミュレーションについて紹介しました。Virtuoso RF Solution環境では、さらに、パッケージ・レイアウトの作成、および、電磁界解析を用いた抽出とモデル化が可能です。さらに、抽出されたICデザインのデータとパッケージ・モデルのデータを統合して、Virtuoso設計環境上でのシミュレーションと結果の解析が可能です[4]。これまで、別々の環境で設計しモデル化されたデータを手作業により統合していた(人為的なミスを含む可能性ある)作業を、共通の設計環境内で共通化された手順を実行して、容易にモジュール全体の高精度なモデル化とシミュレーションを実現します。
以下に、Virtuoso RF Solution環境によるICレイアウトの抽出とパッケージ・デザインの抽出/シミュレーション・フローを示します。
図 6: Virtuoso RF Solution環境によるICレイアウトの抽出と
パッケージ・デザインの抽出/シミュレーション・フロー
まとめ
この記事では、EMX Planar 3D Solver version 6.0から追加されたVirtuoso RF Solution環境からの実行と、Virtuoso RF Solution環境からの電磁界解析の抽出/シミュレーション・フローの有益な機能について紹介しました。EMX Planar 3D Solverは、既に実績のあるMoM法のEMソルバです。従来のVirtuoso環境からの独自のGUIの実行に加えてVirtuoso RF Solution環境からの使用が可能となりました。
5G、車載、IoTなどの製品により推進され急成長する市場では、マルチ・ダイ・パッケージのクロスファブリックの設計/検証方法が、高度なモジュール設計フローに不可欠です。Virtuoso RF Solution環境は、Virtuosoでの回路図ドリブンのICパッケージの協調設計/検証のさまざまなフローを可能にします。
Virtuoso RF Solution環境は、種々の電磁界ソルバとのシームレスな統合がされています。これにより、アプリケーションに最適なエンジンを選択し、クロスファブリックでの電磁界解析と抽出を実行し、ICデザインのより高精度なモデル化や、パッケージ・モデルの容易な取り込みを実現します。このように、設計効率を改善可能なVirtuosoの設計環境により、高度なモジュール設計フローを皆様に提供します。
図 7: Virtuoso RF Solution環境のマルチ・チップレット設計フロー
REFERENCES
- EMX User Manual, EMX Planar 3D Solver version 6.0 (Cadence Online Supportサイト)
- Virtuoso RF Solution Guide, ICADVM20.1 ISR16 (Cadence Online Supportサイト)
- 集積型RFパッシブ・デバイスのモデリングについての考察 EMX Planar 3D Simulatorの紹介,The Sound of Cadence Volume 33, Oct2020
- Virtuoso Meets Maxwell: Virtuoso RF Solutionのクイックスタート, Cadence Blog
- Virtuoso Meets Maxwell: EMX — 業界をリードするRFIC用電磁界ソルバ, Cadence Blog
- Virtuoso Meets Maxwell: 精度を満足させるための階層的な電磁界モデリング, Cadence Blog
- Virtuoso Meets Maxwell: EMX Planar 3D Solverで受動素子と能動素子を持つRFブロックをシミュレートするには?, Cadence Blog
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