医療現場で期待されるハンズフリーソリューション
病院などの医療の現場では、衛生的な観点から直接機器に触れることが出来なかったり、患者さんの触診などで手がふさがっていたりした際に、声で機器を操作できると助かるシーンが多々あります。例えば室温や照明調整など医療行為以外の環境整備から始まり、点滴速度を変えるなど間接的な医療行為のアシストから、医用画像や電子カルテ、検査値の検索など、様々な用途が考えられます。更に今は新型コロナウイルスの流行により、タブレットやマウス、キーボードを共有することによる院内クラスターの発生が危惧される状況にあり、音声認識による非接触操作の充実がウイズコロナ、アフターコロナのニューノーマル社会に必要とされています。
「手術室でのアシスタント(助手)や診察室、病棟での医療クラーク(医師事務作業補助者)に準ずる音声認識で操作できる医療支援システムを期待しています。操作速度の向上による業務効率化や円滑化が主な狙いです。今後は更にAIを使って気を利かせた提案も出来るようにしたいですね。」
このように語るのは、現在、信州大学附属病院放射線科の副診療科長をされている、信州大学医学部画像医学教室の山田哲(やまだあきら)准教授です。日本ケイデンスは、ここ数年にわたり、山田先生とハンズフリー技術の共同研究をしています。昨年は山田先生が共同研究の成果を日本医学放射線学会総会でご発表になり、CadenceLIVE 2020 Japanでも、その内容についてご講演頂きました。
具体的には、ケイデンスのテンシリカHiFi DSPに対応した弊社エコパートナーのSensory社の音声認識ソフトウェアTrulyHandsfreeを用いて、声(ボイスコマンド)で医用画像ビューワー(PSP社製読影ビューワー:EVInsite)を操作し、マウスやスタイラスペンでの操作と検索効率を比較し、その有用性を示した研究です。Sensory社は機械学習分野のリーダー企業でボイス(音声)とビジョン(視覚)技術に長けており、TrulyHandsfreeはスタンドアロンで動作する小型、省電力対応のウエイクワード、コマンドワード認識ソフトウェアIPで、その高い認識率で多くの採用実績があります。
(注釈1: Full report available at Vocalize.ai)
昨年は、このシステムをWindows PC上で動作させていましたが、現在はNXP社製iMX RT600評価ボードに移植し、TrulyHandsfreeはこの評価ボードに搭載されているテンシリカHiFi4 DSPで動作させ、ボイスコマンドをUSBによるシリアル通信でWindows PCに転送し、医用画像ビューワーを操作するようにしました。
また安定した音声認識性能を得るため、弊社エコパートナーのDSP Concepts社による音声抽出ソフトウェアTalkToをフロントエンドに採用しました。こちらもTrulyHandsfreeと同じHiFi4 DSPで同時に動作させています。
TalkToはノイジーな環境に強く距離が離れていても認識率を損ねない点に強みがあり、今回のデモシステムでも高い認識率を得ることが出来ています。またUSBドライバを含むソフトウェアスタック全体の組み上げには、同社のオーディオソフト設計環境Audio Weaverを使用しました。山田先生はこの組込みシステムを試作機として研究に使用し、その研究成果を学会等で発表する予定です。
ケイデンスのテンシリカHiFi4 DSPは、オーディオコーデックや音声コーデック、音響のプリ/ポスト処理は元より、無線通信といったDSP性能要求の厳しい処理を効率的良く実行できるように、高度に最適化されたオーディオ・ボイスDSPです。詳しくは、こちらをご覧ください。 現在はHiFi4 DSPと比較してオーディオ処理で2倍、ニューラルネットワーク(NN)処理で4倍、パフォーマンス向上させたテンシリカHiFi5 DSPがリリースされています。HiFi5 DSPコアは、デジタルホームアシスタントおよび車載インフォテイメントの音声制御ユーザーインターフェイスに理想的なDSP IPコアです。詳しくは、こちらをご覧ください。
山田先生は「非接触操作の医療機器への適用は安全性や倫理的な問題など克服すべき課題が多いですが、今後検証を重ねて安全性が担保されれば、将来的にはただ情報を得るだけでなくて現実的な治療行為、例えば人の手では難しい細かい手術や執刀医の助手の代わりを、音声操作による医療用ロボットアームで担うような直接的医療行為が出来るようになると、従来よりも高度な手術が可能になります。段階的に今後の医療を発展させ、AR/VR画像診断での活用も視野に入れていきたいですね。」と将来への展望も語って下さいました。
日本ケイデンスは、今後も先端技術により、豊かな社会の実現に貢献していきます。
システムソリューション テンシリカ インテリジェント・システム・デザイン
プリンシパルアプリケーションエンジニア
辻 雅之
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