システム解析に向けた電気・熱の協調シミュレーション新製品Celsius Thermal Solver
電気と熱の相互作用の問題
電気特性への熱の影響は常に存在します。例えば、プロセッサの速度制限は温度制限によって設定され、電力は10年間モバイルおよびデータセンター市場において重要な懸案事項です。論理的に、電気的な構成要素が増加すると熱が発生し、システム・パフォーマンスに影響を及ぼします。例えば、自動車業界では、ADASやインフォテイメント・システムが、車載向けの電子機器を大幅に増加させ、熱の影響についての課題はいまだに解決されていません。
さらに、高いデータ・レートも熱を発生させることになります。400Gや800Gのイーサーネットは、熱を発生させる100Gのポートにより構成されています。PCIe®のロードマップでは、64GT/sを予測しており、5Gでは最大10Gb/sのデータ・レートを予定しています。
テクノロジー企業は、5G通信に大きな期待をしています。4Gは理論上100Mbpsに達しますが、5Gの場合10Gbpsです。つまり、5Gは現在の4Gの技術の100倍高速です。1
多くの電子技術の改善が、熱の影響による問題を悪くします。ICパッケージの進歩は、放熱の課題を生じ、IC内部のより密度の高い形状と小さな電圧動作は、熱の影響に対する感度を高くしています。
複数の物理モデル(マルチフィジックス)の問題
電子システムの熱解析は、電気と熱の相互に接続された影響により、より複雑なものとなります。ICの発熱は、主にスイッチング周波数と動作条件の関数で、発生した熱がシステムからどのように消散/伝搬されるのかは、環境条件に依存します。これらの2つの問題は同時に解く必要があります。
多くの場合、システムの放熱には伝導と対流が関係します。IC/パッケージ/ボード/筐体インターフェイスは、主に有限要素法(FEA)により最適に処理される伝導問題です。筐体/環境(空気または液体)インターフェイスは、計算流体力学(CFD)の問題です。したがって、電気および熱の物理領域を同時に解析する必要があるだけでなく、熱コンポーネントには、FEAとCFDの両方のアプローチを必要とします。
解析に関する問題点
これまでのFEAの問題を計算するアプローチでは、今日の高機能なシステムの解析要件まで高めることが困難です。これは、速度や対応可能な規模、コンピュータ環境の制限に起因します。速度制限は、従来のシミュレーション手法の典型的なスケーリングの制限にかかることではなく、数十台以上のサーバーにシミュレーションを分散させることができない、ツールに因るものでした。対応可能な規模の制限は、ツールが必要とするメモリーのフットプリントが大きすぎる場合に生じ、そのため、システム内のオブジェクトをサーバー・メモリーに適合するように個別にシミュレーションする必要がありました。コンピュータ環境の制限は、これらのツールを実行するための大規模なRAMを搭載した十分に超高速なサーバーを購入する経済的な非現実性に起因します。
同時に、電気-熱の協調解析に見られる複雑な相互作用では、システム内のコンポーネントをより詳細に解析することを必要とします。例えば、3D-ICアッセンブリの簡易化モデルは、システムレベルのシミュレーションの影響を表すために必要な精度を持っていません。代わりに、真のFEAが必要となり、上記の制限がより強調されることになります。
未来に向けたアーキテクチャ
過去の十年にわたりシステムがより複雑になりましたが、Cadence®は、SoCドメインの従来からの電子回路設計の問題に対する新しいアプローチを開発してきました。10nm以下の設計の要望を満足するには、寄生抽出、タイミング解析、電源グリッド解析、物理検証などの必要なステップをスケール・アップするために、新しいアルゴリズムやアプローチが必要になることが、ますます明確になっています。
これらの要望を満足するために、Cadenceは、クラウドに最適化されたコンピュータ環境において大規模なスケーラビリティを実現する新しいソフトウェア・アーキテクチャを開発するために、計算ソフトウェア開発の専門知識を活用してきました。
このアーキテクチャは、Cadence SoCインプリメント・プラットフォームの土台となり、電磁界解析の有限要素抽出とシミュレーションを実行するCadence Clarity™ 3D Solverの基盤となっています。
この同じアーキテクチャが、電子システムの開発者にとって有用な電気-熱の協調解析用に実装されています。
制限の克服
Cadence Celsius™ Thermal Solverのリリースにより、電子システムの開発者は、通常の制限を回避することが可能になります。従来のソリューションと比較して、Celsius Thermal Solverには以下の特徴があります。
- 5から10倍のサイクル・タイムの改善の速度制限の解消
- 最大10倍のメモリー使用量の削減による規模制限の克服
- パブリック・クラウド環境での実行に最適化されたソリューションによる、スーパー・ハイエンド・サーバーに依存するコンピュータ環境の制限の排除
Celsius Thermal Solverリリース前の2年間、ベータ・カスタマに試行いただき、既に良好な結果が得られています。図 1は、車載アプリケーションのデバイスの実際の結果を示しています。この結果では、Celsius Thermal Solverは従来のツールと比較して、7倍のサイクル・タイムの改善と11倍少ないメモリー使用量となる結果が得られています。
図1:車載アプリケーションの試作用のリジッド/フレキシブルPCBアッセンブリの組み合わせの解析例
熱解析のソリューション
Celsius Thermal Solverにより、設計チームは、電子業界初の完全な電気-熱の協調解析ソリューションが可能になりました。
- CFDとFEAの組み合わせたシステム全体の解析の実現
- トランジェント解析と定常状態解析による高精度な電気-熱の協調解析の実現
- 大規模並列実行により、既存ソリューションより最大10倍高速なパフォーマンスの実現
- CadenceのICおよびPBCの実装プラットフォームへの統合による、迅速なイタレーションの実現
図2:Celsius Thermal Solverが提供するトランジェント解析と定常状態解析
まとめ
今日、熱の影響を解析し軽減することは、広くさまざまな市場にわたる電子システムの開発の重要な懸念事項となっています。適切な解析には、FEAやCFD解析と電気-熱の協調解析を組み合わせる、複数の物理モデルを扱うマルチフィジックスのアプローチが必要になります。従来のソリューションでは、生産性を制限しプロジェクトの予定を延ばす様な、速度、キャパシティ、コンピュータ環境の問題があります。Celsius Thermal Solverは高機能なアーキテクチャと機能セットを持ち、電子システムの開発者が今日の熱の課題に対応することを可能にします。
当該リリースに関連するプロダクト、テクニカルの詳細情報につきましては、12/13(金)に開催予定のセミナーにてご紹介いたします。このセミナー情報につきましては、ホームページやメール配信にて別途ご案内申し上げます。
参照
- C. Hoffman, “What is 5G, and How Fast Will It Be?” How-To Geek, 15 March 2019. [Online]. Available: [Accessed 15 August 2019].
- Thermal Challenge Technical Brief
フィールドエンジニアリング&サービス本部
志賀 奈津子
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